今や、あらゆる業務や生活シーンで欠かせない存在となったインターネット。しかし、その“基盤”を支えるネットワーク設備にも寿命があることは、意外と見落とされがちです。
築年数が10年を超える建物や、設置から数年が経過したルーター・ハブ・LANケーブルなどの機器は、性能の劣化や規格の陳腐化によって、通信トラブルやセキュリティリスクの温床になる可能性があります。
企業にとっても、マンションオーナーにとっても、ネット設備の更新時期を正しく見極め、必要なタイミングでリプレイス(更新)を行うことが、快適な通信環境を維持し、トラブルを未然に防ぐカギとなります。
この記事では、各設備の寿命やチェックポイントを築年数別にわかりやすく解説し、ネット環境の「今すぐ確認すべき箇所」と「更新の判断基準」を一覧でご紹介します。
1.ネット設備に「寿命」はある?まず知っておきたい基礎知識
インターネットが生活や仕事の基盤となった現代。快適で安全な通信環境はもはや“当たり前”の条件です。しかし、その土台を支えるネットワーク機器、ルーター、スイッチ、無線アクセスポイント、ケーブルなども、実は時間とともに劣化し、時代に合わない“陳腐化”が進んでいます。
①法定耐用年数と実質的な使用寿命の乖離
・ルーター・スイッチ類:法定耐用年数は10年ですが、多くの場合、実際の寿命は5〜6年。
・無線LANアクセスポイント:同じく4〜6年程度が目安。
・光回線終端装置(ONU):10年前後で更新推奨。
・LANケーブル/光ケーブル:有線ケーブルは10年ほど、光ケーブルなら20年以上も持つケースも。ただし、配線状況や施工品質に左右されやすい。
たとえばルーターを導入してから6年以上経過している場合、セキュリティパッチの提供停止、通信規格の旧式化、性能安定性低下が懸念されます。また、OE比率の高い機器では壊れる前に“交換した方が安上がり”というケースも増えてくるのです。
「ネットが繋がればいい」から「速くて安全」が当然の時代へ:築10年以上の物件では、ネットの老朽化が住まい選びの大きな判断要因になる可能性があります。
②法定 vs 実質:耐用年数のギャップ
機器や設備には税法上の法定耐用年数がありますが、これは減価償却の計算基準に過ぎません。一方で使用環境や通信量、配線状態に応じて劣化していく実際の寿命は、それらとは別に意識しておく必要があります。
・ルーター・スイッチ:定格寿命は約5〜6年。越えると以下の不具合が出やすくなります。
a.通信速度の頭打ち
b.不定期な再起動やパケットロスの増加
c.ファームウェアの更新非対応によるセキュリティ脆弱性
・無線アクセスポイント:WPA3対応の必要性など、セキュリティ面での陳腐化が課題です。
・ONU(光回線終端装置):ISP側の規格変更や通信波形変更により、性能低下が起こることもあります。
・ケーブル(LAN・光):物理的な劣化は施工品質・環境によりますが、酸化や断線、断面の摩耗などで通信品質が低下しやすい。
→各設備の設置から〇年で交換検討、という目安を作るのは、トラブル前に対処する“予防保守”の第一歩です。
2.築年数・使用年数別に見るネット設備の劣化ポイント
築年数を軸に、どのタイミングでどの機器に注意すべきかをご紹介します。
①0〜3年:初期設置期。見落としがちな配線トラブル
・通信機器の初期設定・品質確認が未完了な場合があります。トラフィック増加に対応できない設定のまま運用されていないか要確認。
・LANケーブルの施工ミス(曲げすぎ、接触不良)による速度低下が見られるケースもあります。
・チェックポイント:配線状態の目視点検、通信速度テストの実施を。異常があれば早めに手直しを。
②3〜5年:無線LANやルーターの更新検討時期
・この時期は、通信規格の世代交代(例:802.11ac→ax)やISP側の変化による速度上限アップに対応すべき転換点。
・特に無線LANルータは、ファームウェアアップデート停止やWPA2→WPA3非対応によるセキュリティ低下が問題になります。
・確認すべき兆候:
a.電波が届きにくく感じる
b.接続に時間がかかる
c.再起動しないと回復しない不安定さが頻繁に発生する
③5〜10年:機器の旧式化進行・不具合頻出期
・ルーター・スイッチ・ONUともにパフォーマンス不足や故障頻度の増加が顕在化します。
・ONUではISP機器の仕様変更に伴い、通信品質の低下が見られる可能性があります。
・有線機器も“速度規格的に遅い”ケースが増えており、ギガ対応や10ギガ対応への切り替え機会です。
・チェック項目
a.年間を通したスピードテスト結果の推移
b.冗長構成の有無、構成に問題はないか
c.ハードウェアの発熱レベル、故障履歴
3.リプレイスが必要な症状とその兆候
ネット設備は、明確な“壊れた”という状態になる前に、さまざまな「不調のサイン」を出しています。見逃すと、入居者からの不満や業務トラブルに直結しかねません。
①よくある不具合の例とその原因
・通信速度の低下
→ 電波干渉、出力不足、最新規格(Wi-Fi 6など)非対応の可能性あり。
・ルーターの再起動が頻繁に必要
→ 熱暴走や容量オーバー、故障間近のサイン。
・セキュリティ面の不安
→ 古い機器はWPA3非対応、ファームウェア更新が打ち切られていることも。
②入居者・社員からの「声」が最大のヒント
・「Wi-Fiが夜になると遅い」
・「オンライン会議で音が途切れる」
・「突然つながらなくなることがある」
これらのクレームが出始めたら、設備更新の検討を急ぐべきです。
4.ネット設備の更新判断チェックリスト(築年数別)
①チェックポイント早見表
築年数・使用年数 | 要チェック項目 | 推奨アクション |
3年以内 | Wi-Fiの安定性、通信速度 | 初期設定の見直し・最適化 |
3~5年 | 無線ルーター、ONU | 規格確認・更新検討 |
5~10年 | ルーター、スイッチ類 | リプレイス検討本格化 |
10~15年 | LAN配線、分配器 | 全面点検・ケーブル交換検討 |
15年以上 | 構成全体 | ネットワーク全面刷新の検討 |
②判断の3軸:築年数・性能・不具合
・築年数や設置時期
・現在の通信品質(スピード・安定性)
・入居者・利用者からのトラブル報告の有無
これらを総合的に見て「更新すべきかどうか」を判断しましょう。
5.ネット設備のリプレイスにかかるコストと相場感
①機器ごとの費用目安(2025年時点)
機器名 | 更新費用の目安(1台) | 耐用年数 |
無線LANルーター | 約1~3万円(法人用は5万円~) | 約4~6年 |
ONU(光終端装置) | 事業者支給or約5,000円~1万円 | 約10年 |
スイッチングハブ | 約1~5万円(ギガ対応) | 約5~7年 |
LANケーブル | 1本数百円~/工事費用含め数万円~ | 約10~20年 |
② 更新の“費用対効果”をどう考えるか
・空室1室の家賃×数ヶ月の損失 > ルーター1台の更新費
・業務効率低下の累積時間=隠れた損失
結果として、「壊れる前の更新」がコストを抑える最大のカギになります。
6.実例紹介:通信品質が改善したケース
①オフィスでの実例:通信障害が業務に支障
都内の中小企業(築12年ビル)では、毎週のように会議中にWi-Fiが切れる状況が発生。ルーターを法人用Wi-Fi 6対応モデルに交換し、有線LANでPCを接続する構成に見直した結果、トラブルがゼロに。業務効率も向上。
② 賃貸マンションでの改善例
築15年・20世帯の賃貸物件では、ネット無料をうたっていたものの、共有ルーターが5年以上前の型で速度が遅く、入居者離れが続出。
法人向けメッシュWi-Fi構成に切り替え、全世帯の通信速度が平均80Mbps以上に改善。空室が3ヶ月で埋まり、更新投資を回収できた。
7.今すぐできる「ネット設備点検」のすすめ
・使用年数の可視化:いつ導入された機器か、一覧表で把握を。
・築年数が10年を超えた物件・施設は特に注意。
・速度低下、トラブル報告、セキュリティ非対応のいずれかがあれば、更新のサイン。
ネット設備の更新は、「壊れてから」ではなく、「壊れる前に」行うことが最大の空室対策・業務効率化対策となります。
定期的な点検とリプレイス計画を立て、“見えないインフラ”の質を高めることが、選ばれる物件・選ばれる職場への第一歩です。
8.よくあるQ&Aで不安を解消!
Q1.「まだ普通に使えてるけど、本当に交換する必要あるの?」
A:動いている=安心とは限りません。
ネット機器の劣化は、目に見える“完全停止”よりも、通信速度の低下・不安定さ・セキュリティリスクといった“見えにくい不調”として現れるケースがほとんどです。
特に法人や賃貸物件の場合、「我慢して使っている」入居者・社員が多いという前提で考えるべきです。
ファームウェアの更新が止まっている、WPA3など最新の暗号規格に対応していない、といった状態は見過ごせません。
Q2.「一部だけ交換しても意味がないのでは?」
A:重要なポイントだけでも効果あり。ただし“構成全体”を意識するのが理想。
たとえばルーターを最新の高速対応機にしても、LANケーブルが旧式(Cat5や5e)だと、通信速度のボトルネックになります。
段階的な更新でも十分効果はありますが、構成全体のスペックを合わせていくことが理想的です。
以下の優先度でリプレイスを進めるのが現実的
①無線LANアクセスポイント/ルーター
②ONU(回線終端装置)
③スイッチングハブ
④LANケーブル類
⑤分配装置やラックなど構造物
Q3.「更新後のトラブルや不具合が怖い」
A:事前の現地調査・スペック評価・小規模テストがカギ。
リプレイス後の不具合を避けるには、いきなり大掛かりな入れ替えを行わず、段階的な導入・設定テスト・運用確認をおすすめします。
・トラブルの起きやすいポイント
①配線の不適合(PoE非対応など)
②VLANやIPアドレス設定のミス
③既存ネットワークとの接続不整合
また、業者選びの際には「設定含めた運用サポートが可能か」「事前テストや導入前のアセスメントを行ってくれるか」もチェックしておきましょう。
9.まとめ:築年数にとらわれず“選ばれる物件・職場”へ
ネット設備は“見えないインフラ”ですが、今や顧客満足・入居率・業務効率を左右する最重要設備となっています。
①今後10年を見据えた戦略的リプレイスのすすめ
・入居者は“ネットの質”で物件を選ぶ時代
築年数よりも「どれだけ快適にネットが使えるか」が重視される傾向にあります。
・法人も“通信トラブルゼロ”が求められる時代
テレワーク・Web会議が常態化した今、通信障害は直接的な機会損失につながります。
・“必要になってから”では遅い!先回りが命
ネット設備は壊れてから交換では遅すぎます。定期点検・更新サイクルを仕組み化することが理想です。
②今すぐできる3つのアクション
・現状ネット設備の「使用年数」と「規格」の棚卸しをする
・入居者・社員からの“ネットに関する声”を収集する
・今後5年で必要になるであろう設備を予測し、計画に組み込む
快適で安全なネット環境は、設備投資ではなく“競争力の源泉”です。
「見えないところにこそ差がつく」今だからこそ、ネット設備の見直し・更新で、あなたの物件や事業の魅力をさらに高めていきましょう。