今や物件選びにおいて「快適で安定したインターネット環境」は、家賃や立地と並んで入居者が最優先で検討するポイントになっています。特に「築10年以上」の物件では、老朽化したネット設備が目に見えない障壁となり、入居希望者が候補から外す原因になっているケースが増加中です。
本記事では、なぜ今ネット環境が賃貸経営の“命綱”となっているのか、その背景から具体的対策、実例までを以下の構成で詳しく解説します。
1.なぜ“ネット設備”が空室リスクに直結?
近年、賃貸物件を選ぶ際の“当たり前”として定着してきたのが、インターネット無料設備の有無です。とくに単身者・若年層・在宅勤務層が増える中、ネットの通信速度や安定性は、冷暖房や風呂・トイレと並ぶ「生活インフラ」として捉えられています。
そんな中で、築10年以上の物件に多く見られるのが、設備の老朽化や通信品質の低下。それが結果として「空室が埋まらない」「家賃を下げないと入らない」という問題へとつながっているのです。
①入居者が「ネット無料」を前提に物件を探す時代
総務省の調査では、2020年以降の賃貸物件検索において「ネット無料」は検索条件として常時上位にランクイン。特に単身世帯向け物件では6〜7割以上が“ネット無料”を標準化しているエリアも増えています。
一方、築年数が10年以上経過した物件では、当時の通信インフラが残されたままになっているケースが多く、結果として「検索すらされない」状態に陥ってしまいます。
②コロナ禍が変えた“通信ニーズ”
テレワークやオンライン授業が当たり前になった現在、単に「ネットが使える」だけでは不十分です。求められているのは以下の3点
・高速通信(動画・会議・クラウド対応)
・通信安定性(ラグ・途切れ防止)
・セキュリティ(WPA3等対応、VPN使用可)
この3点を満たせない物件は、築浅かどうかに関係なく敬遠される要因になります。
2.築10年以上の物件が陥りがちなネット設備の問題点
①無料Wi-Fi未整備=空室率増加の火種
築10年以上の物件では、もともとネット設備がなかったり、1台の共用ルーターで全戸に供給している旧式構成が多く見られます。この場合、
・同時利用者が多いと速度が極端に低下する
・ファームウェア未更新の古い機器がセキュリティリスクに
・入居者が「個別に契約してください」と案内される
といった不便があり、今のニーズに合っていません。
②配線・規格の古さも見逃せない
築古物件で使われている配線の多くは「Cat5」や「Cat5e」といった、最大100Mbps程度しか出ない規格であることが多く、現代のネット利用状況には明らかにスペック不足です。
特にYouTubeやNetflix、Zoomなどを常用する現代では、
・1Gbps以上に対応したLAN配線(Cat6以上)
・Wi-Fi 6/Wi-Fi 6E対応ルーター
・IPv6対応の通信プラン
などの整備が必須となります。
3.ネット無料設備が“空室対策の定番”になってきた理由
①人気設備ランキングで「ネット無料」が堂々1位
全国賃貸住宅新聞が毎年発表している「この設備があれば入居が決まる」ランキング(2024年度)で、単身者・ファミリー共に「ネット無料」は堂々の1位となりました。
これは、物件設備としての優先度が、
オートロック > 宅配ボックス > システムキッチン よりも「ネット無料」が重要
という認識に変化していることを意味します。
② ポータルサイトでも「ネット無料」で検索が当たり前に
SUUMO・HOME’S・アットホームなど大手ポータルでも、「ネット使用料無料」のチェックボックスは最初からONになっていることも多いため、設備未対応物件は検索結果に出ない=存在しないのと同じという扱いになることさえあります。
4.導入に成功した築古物件の実例と効果
①築15年物件:Wi-Fi導入で空室4部屋が3週間で満室に
神奈川県内のRC造マンション(築15年、1K・全12戸)では、入居率が80%台に停滞していたところ、法人向けのWi-Fi設備を導入。
・共用部にメッシュWi-Fiアクセスポイントを設置
・各戸にはWi-Fiパスワードを提供
・月額利用料を管理会社が一括契約
結果として、導入後3週間で残りの4部屋が埋まり、広告費も削減できたとのことです。
②築20年木造アパート:月額+3,000円の家賃アップに成功
地方都市の築20年アパートでは、建物全体にLAN配線を新設し、各部屋にルーターを設置する「戸別インターネット方式」を導入。あわせて家賃を月3,000円アップ。
導入費用は約80万円でしたが、半年以内にすべての投資が回収でき、その後の退去率も低下。オーナーからは「ネット環境を整えただけでここまで変わるとは」との声もありました。
5.導入に際して押さえておきたい5つのポイント
ネット設備を導入・刷新する際には、単に“無料Wi-Fiを付ければOK”という考えでは失敗する可能性があります。以下の5点をチェックしてから導入を検討しましょう。
①「無料」であることの定義を明確に
入居者から見て“無料”であることが魅力的なのは確かですが、実際には管理会社やオーナーが費用を負担している形になります。
その費用分をどう家賃に転嫁するか、契約内容にどう明記するかが重要です。
②通信速度と安定性は絶対条件
無料Wi-Fiがあっても、
・速度が常時10Mbps未満
・夜間になるとつながらない
・同時接続数が制限される
といった状態では逆効果です。最低でも100Mbps、できれば300〜500Mbps以上を安定して出せる環境が理想です。
③セキュリティに配慮した設計を
Wi-Fiを全戸で共用していると、IPアドレスの衝突や他人の通信のぞき見リスクが発生することも。個別のSSIDやVLAN分離など、ネットワーク分離の設計がポイントです。
④ 初期費用と月額のバランスを考慮
例:
・戸建て式(各戸ONU+ルーター):初期費用高いが安定性◎
・共用型メッシュWi-Fi:初期費用低めだが設置箇所に制限あり
導入費と月額費を収益にどう転嫁するかをあらかじめ試算しておきましょう。
⑤ 通信業者・設備業者の選定
・業者が自社キックバックを目的に過剰な設備を提案してくることもあります
・複数社の相見積もり、アフターサポート体制の確認が必須です
6.設備導入の注意点と失敗例
① 無料Wi-Fiを導入したのに、逆にクレームが増えた
導入後に以下のようなクレームが多発:
・「動画が途中で止まる」
・「夜になるとまったくつながらない」
・「ほかの部屋の人がゲームをすると重くなる」
これは通信速度と接続数の設計不足、あるいは回線の帯域不足によるもの。“あるだけWi-Fi”はもはや通用しません。
②スペック不足のルーター設置で失敗
法人用ルーターを避けて家庭用の安価なモデルで設置した結果、同時接続が10台を超えると通信が切断される問題が頻発。
機器選定はコストではなく、入居者数と通信量に見合ったスペックかどうかで判断を。
③管理が複雑化してオーナーが混乱
自主管理の物件でネット設備の管理をすべてオーナーが担ったケースでは、トラブル時の対応に追われて業務過多に。
→ 管理会社か、業者による一括サポート体制の構築が必須。
7.賃貸経営にネット設備を組み込むための戦略
①家賃に転嫁しても“得”と感じてもらえる設備に
「ネット無料物件」は、家賃に+2,000〜3,000円程度上乗せしても、入居者から「むしろ割安」と思われる傾向があります。
導入費用はたとえば30万円程度かかっても、空室が1室減れば1〜2ヶ月で回収可能です。
② 退去率抑制という“目に見えにくい効果”
実際に設備を導入した物件では、
・ネットの不満がなくなったことで居住満足度が向上
・住み替えの理由から「通信の不便さ」が消えた
・管理会社への苦情件数が大幅減
という“静かな成果”が出ています。
③オーナー自身のリテラシー向上が重要
ネット設備に詳しくなくても構いませんが、最低限のポイント
・自物件のインターネット構成(共用型/戸別型)を把握
・通信速度の測定方法(Speedtest等)を知る
・設備導入のROI(費用対効果)を理解
を押さえておくことで、業者任せの導入ではなく、主体的な判断ができるようになります。
8.まとめ :ネット環境は“築年数より優先”される時代
今や、築浅であること以上に「ネットが快適に使えること」が求められる時代です。
そのためには以下のポイントが鍵になります。
今すぐ見直すべきチェックポイント
・自物件にネット無料設備はあるか?
・通信速度・安定性・セキュリティは十分か?
・入居者の声やクレームに通信関連のものはないか?
・設備の使用年数・規格は現在の水準に合っているか?
築古物件でも“選ばれる部屋”に変えるには
・通信設備の見直し・刷新は、空室対策として即効性あり
・導入コストは短期間で回収可能。家賃収益を安定化できる
・退去防止・管理業務軽減にもつながる